「君、名前なんていうん?」
突然背後から聞こえた声に、イヅルは振り返った。
満開の桜の下に、銀髪を風に遊ばせた長身の男が立っていた。
Soul-Society-School、通称SS学園。
全国から選り抜きの優秀な生徒が集められ、一風変わったカリキュラムで未来のエリート達を養成する全寮制高校。
この学園に入れるのは受験に合格した者ではない。
学園を運営する大財閥、山本元柳斎重國の眼鏡に適った者だけ。
故に『プラチナペーパー』と呼ばれる推薦状が送られてきた、限られた天才だけが集う場所である。
吉良イヅルはいわゆる秀才だった。
全国模試の結果は決まって一番だったが、そんな事は当たり前だよと、将来は弁護士を目指して既に司法の勉強にまで手を出している。そんなイヅルにSS学園からのプラチナペーパーは当然と届けられた。
最新鋭の設備の整った学園での三年間の学費は無料。
寮生活も学園側が負担し、教育と生活に関する一切を学園側が保証してくれるシステムがイヅルには何より魅力だった。
両親を早くに亡くし、中学からは親戚に書類上の保護者を頼むだけで一人で生活してきた。
学費と生活費は、そこそこの資産を残してくれた両親に感謝しながら貯金を切り崩すことで事足りた。
それでも義務教育以上の教育費は勉強をしたいと思えば思うほど高額の支出が必要になる。
SS学園の入学は、ある意味、イヅルの努力と奮闘の当然の結果でもあった。
入学式を前に、新入生達はめいめい荷物を担ぎながら、各自に宛われた三年間の寮部屋に向かっていた。
イヅルもスポーツバック一個という大きさではあったが、荷物を手に寮に向かっていたその時である。
「君、名前なんていうん?」
突然背後から聞こえた声に、イヅルは振り返った。
満開の桜の下に、銀髪を風に遊ばせた長身の男が立っている。
SS学園の制服を着ているので上級生だと知れた。
「吉良イヅルと申します。貴方はどなたですか?」
「イヅル君か。ボク、市丸ギン言うねん。ここのガッコの生徒会長や」
イヅルは驚いて目を見開いた。
天下のSS学園の生徒会長が、一体自分に何の用だろうか。
自然緊張の走ったイヅルの表情に、市丸は「怖がることないで」と緩い関西弁で笑う。
「金髪がよう目立っとったから、名前訊いただけや。それ地毛なん?」
「はい。何代か前に外国の血が混じっていたらしく、隔世遺伝の先祖帰りなんです」
「ふーん。ボクも銀髪やから目立ちよるねんけど、イヅル君の金髪はごっつう綺麗や。ええね」
「あ、いえ、そんな……あ、ありがとうございます」
イヅルは赤くなって照れた。
そこへ軽い音のアナウンスが流れて、新入生は講堂へ集合するようにと知らせる。
「あ、僕行かないと」
「ん。また後で会おな」
市丸は軽く手を振って去っていった。
イヅルはその背を暫く眺めていたが、思い出したように寮に向かって走っていった。
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