「新入生は荷物を部屋に置いたら、速やかに講堂に移動するようにっ!!」
イヅルが慌てて駆け込んだ寮では、丁度講堂に向かう群れが出入り口を塞いでいて、大きな荷物を抱えたイヅルは逆流に飲み込まれそうになった。
「おい、大丈夫か?」
そんなイヅルの手を引っ張って、流れから救い出してくれたのは如何にも怖い顔の上級生だった。
「あ、あの、すみません」
何でこんなエリート学園に入れ墨してるような人がいるんだよ!?
イヅルは三白眼に見下ろされて、取り敢えず謝ってみた。
「部屋は分かるか? 急がないと遅れるぞ」
しかし上級生は意外にもあっさりイヅルを離し、あろう事か流れの盾になって階段の方に押しやってくれた。
「あ、ありがとうございますっ」
イヅルは大慌てで一礼すると、階段をダッシュで上がって荷物を置き、ターンを決めて階段を駆け下りる。
すると先ほどの上級生はまだ其処にいて、
「講堂はこ道の先の花壇を左に曲がった建物だ。急げば間に合う」
丁寧に道案内してくれた。
彼が方向を指さすので、イヅルは「ありがとうございます」と言いながら駆けようとして気が付いた。
肩口まで捲り上げられたシャツの左腕、『寮長』の腕章が巻いてある。
人は見掛けに寄らないものだ。
イヅルは改めてこの学園の凄さを実感していた。
駆け込みセーフで間に合った講堂で、イヅルはアルティメットクラスに配属された。
この学園は学業は勿論、スポーツや芸術など、色々な分野で秀でた天才達を集めて一統に教育している。
その為、成績優秀で集められた生徒と、スポーツその他の業績で集められた生徒は授業内容も変わってくる。
その中で特に学業に秀でた者達だけを集めたのがアルティメットクラスだ。
元々少人数の学校だが、クラス分けされると更に生徒は少なくなる。
ほんの十人程度のアルティメットクラスにあって、その赤髪の生徒は悪目立ちしていた。
「それではいきなりじゃが、最初の授業までに課題を出す」
緊張の入学式を終え、一旦クラス毎に各教室に案内されたアルティメットクラスの生徒は、色黒で大きな目が印象的な、四楓院夜一という女教師の指示の元、いきなり二人から三人程度の班を作るよう指示された。
全員が初対面の中、金髪のイヅルは当然のように浮いている。
黒髪同士がぎこちない笑みの中、ちまちまと班を作っていくのを眺めて、同じように浮いている赤髪に目が行ったのは至極当然だった。
「あー、俺、阿散井恋次って言うんだけど」
「あ、吉良イヅルです」
初対面の挨拶というのは妙に気恥ずかしい。
イヅルはどうしてもぎこちなくなってしまう笑みを浮かべながら、姿の割にマトモそうな阿散井恋次という生徒を観察した。
上背があって成績優良者と言うよりはスポーツ特待生と言っても通じそうな体躯。
赤い髪は後ろで引っ詰めて括り、好戦的な顔立ちはキツイが精悍とも言える。
物言いは無骨だが、あっけらかんとして好感が持てた。
「良かったら一緒の班になろうよ」
イヅルの言葉に、恋次は心底ほっとしたように「おう」と、はにかみ笑いを返してくれた。
そこへ「あの〜」と、頼りない少女の声が重なる。
恋次とイヅルは声の主を振り返った。
「私も一緒に良いかな」
驚いて他の班を見渡し、改めて気付いた。
アルティメットクラスの女子は一人だけだったのだ。
「私、雛森桃。よろしくね」
ぴょこんと頭を下げた小柄な少女、雛森と、恋次、イヅルはすぐに打ち解けた。
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寮長は檜佐木先輩です。