「おい、市丸。頼みは聞いてやったんだ。今度はお前にツケを払って貰うぜ」

一晩明けて次の日の放課後、生徒会室には市丸、日番谷、乱菊の姿があった。

市丸は何やらパソコンから伸びたイヤホンを外し、憮然と腕組みする日番谷に向き直った。

「相変わらずシロちゃんはせっかちさんやなぁ。お楽しみって言うんは後に取っとくんが大人やねんで」

大人、の部分を特に強調して市丸がのたまうのに、日番谷は目元を鋭くして市丸を睨んだ。

「はぐらかすんじゃねぇ、狐」

乱菊は我関せずと持参の缶紅茶を啜る。

話す気がないのが見え見えの市丸は、行儀悪く机に脚を投げ出し、そのまま斜めになった椅子を漕ぎながら、ぼんやりと呟いた。

「まぁ、かなりええ所まで進んでるんやけど、後もうイッコ詰めが足らんねんなぁ」

そこへ廊下の方から人が喋る声が聞こえてきて、ドアがノックされた。

「吉良です。入ります」

声をかけると同時にイヅルが入ってくる。

その後から小柄な少女が顔を出した。雛森である。

「ん。悪いけどお客さんやねん。シロちゃん、乱ちゃん、話はまた後にしてくれる?」

日番谷が舌打ちする。

乱菊は肩を竦めて、「ギン、背中刺される前に何とかしなさいよ」と、日番谷を促し外に足を向けた。

「あ、ちょい待ち。イヅル、お前、今日会計部の方手伝ったり。シロちゃん、優秀なイヅル貸したるから勘弁したって」

片手を挙げて拝む市丸に、日番谷は眉を寄せる。

当のイヅルも驚いたが、おとなしく日番谷、乱菊と共に生徒会室を後にした。

残された雛森は、当惑の表情で市丸と対峙した。

「あの、私、何でここに呼ばれたんでしょうか?」

「ん。藍染副理事のことやねん」

市丸は社前の狐そっくりの顔で笑った。

「藍染先生」

「そや、雛森ちゃんの大好きな藍染先生の事や。ちょっと秘密の話、付きおうてくれる?」
















生徒会室を追い出された三人は会計室に戻ると、仕事そっちのけでお茶の時間に突入した。

「市丸の野郎、何考えてやがるんだ」

日番谷が低く唸る。

「あいつが何考えてんのか分からないのなんて、いつもの事じゃないですか」

乱菊はあっけらかんと笑うが、日番谷は「違う」と言った。

「あいつのお巫山戯はいつもの事だが、今回のはどうにも府に落ちねぇ。何か裏がある」

そう言ってイヅルの方をちらりと見た。

「どうせ理事長に頼まれた厄介事でも片づけてるんだろうが、どうも嫌な感じがする」

イヅルはさすがに瞠目していた。日番谷の勘は抜群である。

そして市丸の台詞を反芻していた。

『イヅル、お前、今日会計部の方手伝ったり。シロちゃん、優秀なイヅル貸したるから勘弁したって』

市丸はそう言った。

授業以外、四六時中イヅルの傍らを離れない市丸が、『貸してやる』と言ったのだ。イヅルを。

この意味は何だろうとイヅルは考えていた。

生徒会室を出る時、振り返った自分に市丸はイヅルにだけ分かる仕草でウィンクを寄こした。

この台詞の前、市丸は何と言ってたか。

『話はまた後にしてくれる』だ。

そして『イヅルを貸してやるから勘弁して』に続く。しかも『優秀』付きだ。

「あ―――っ!!」

「な、なに!?」

突然奇声を発したイヅルに、乱菊が驚く。

イヅルはポンと手を叩くと、にっこり笑った。

「市丸会長の意図がやっと分かりました。日番谷さん、松本さん、僕から事の顛末、お話ししますね」











あの晩の告白の後、一護と雨竜の関係は気まずかった。

一護は助っ人を募ろうと言ったのに対して、雨竜は必要ないと突っぱねた。

だがこれは一護と雨竜、二人だけの問題ではない。

散々悩んだ末、助っ人の人選を雨竜が担当する事で決着が付いた。

「―――で、誰にするか決めたのか?」

「ああ。朽木さんに話そうと思う」

「ああ!? お兄さまにか!?」

一年レギュラークラスには朽木が二人居る。

その内の一人はどう見ても高校生には見えない端正な美貌の通称『お兄さま』だ。(本人希望)

「ち、違うよっ!! 朽木女史の方だよ」

「っ……本人に話すのか」

「ああ。洗いざらい全て話して、頭を下げてみるよ」

雨竜はちょっと照れたように頬を染め、あらぬ方を向いて付け加えた。

「黒崎まで巻き込んだんだ。もう僕は間違った事はしたくない」

「そっか」

暖かな眼差しで頷いた一護は、うっかり、石田って意外と可愛い奴なんだな、と思っていた。










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後もうちょっと。