一護の部屋に、一護と雨竜とルキア、そして兄様こと白哉が、ベットや机の椅子など、狭くはない室内にめいめいの場所を見付け、座っていた。

「一護、話というのは何なのだ」

「つか何で兄様がいるんだよ。俺はお前に話があるっつっただけだろ」

微妙に左隣の雨竜から発せられる、お怒りオーラに冷や汗を掻いて、一護はそれとなく釈明した。

「当たり前だ。男ばかりの部屋に、妙齢の女性を単身で入室させるなど言語道断だ」

お前は男じゃないのかよっ!!!、と胸中つっこみを入れた一護だが、白哉の凄味に気圧されした。

そこへ部屋をノックする音がして、「おいっ!!一護!!」と恋次の声が響いた。

「はぁっ!? 恋次? 何だよテメェ何の用だ」

驚いた一護が慌ててドアを開けようとしたが、雨竜に制され、扉越しに返答を待つ。

「何の用とはご挨拶じゃねぇか!! 俺ぁ斑先輩に頼まれてわざわざ新しい甲手を持って来てやったんだよ!! 開けねぇなら捨てちまうぞっ!!!」

「あああぁ!!! 待てっ」

アルティメットクラスの生徒でありながら、剣道部所属の恋次は実は一護と仲がいい。

喧嘩上等の付き合いだが、互いに互いの実力を認め合っているせいか、時々部屋に遊びに来る事もあった。

一護は最小限に扉を開き、後ろ手で閉め、廊下に出ると、むすっとした恋次に向き直った。

「悪ィ、サンキュウな」

そう言って恋次がぶら下げている甲手を受け取ろうとした瞬間、一護よりも高い恋次はそれを頭上に上げてしまう。

「何隠してやがる?」

恋次の顔は嫌な笑いで満ちていた。

「な、何も隠してなんかねぇよ」

「嘘吐けっ!! ぜってぇ部屋に何か隠してんだろ」

言うが早いか実力行使に出た恋次に、慌てて一護も抗戦する。

ドアを挟んで押すは引くはの大合戦だ。

「うぉぉぉおおおぉぉぉぉ」

「ぬぉぉぉおおおおぉぉぉぉ」

双方、唸り声を上げながら均衡状態を保っていたが、勝敗はあっという間についた。

恋次がパッと手を引っ込めたので、一護は思い切りドアを閉めた拍子に自分の指を勢いよく挟む。

「ぎゃぁあああああああああああああああっ!!!!!!!!」

悲鳴は多分、寮の隅々まで響いただろう。











結局、異様な雰囲気と、接点乏しい顔ぶれが集まる部屋の様子を見られた一護は、恋次に言い訳する理由を思いつけなかった。

「何してやがったんだ?」

訝しむ恋次を制したのは雨竜だった。

「君は、アメティメットクラスの阿散井君だね?」

「お、おう」

恋次の方に、雨竜の覚えはなかったが、雨竜は恋次を知っていたらしい。

「僕達は今、大事な話をしようとしている所なんだ。悪いが席を外して貰えないか?」

「…………そいつはヤバイ話じゃねぇんだろうな?」

恋次の問いかけに、一同は黙り込む。

「おいおい。もう見ちまったことは無かったことには出来ねぇぜ? この先何かあったら俺はお前等のこと話すかも知れねぇ」

「恋次」

一護が苦く呟くのに、恋次は、む、としながら先を続けた。

「だから、俺にもちゃんと話しておけば、俺だって鬼じゃねぇ。共犯にはなっちまうが、お前等の味方にはなれるかも知れねぇ。何も知らなければ、どっちの味方になって良いのかも分からねぇだろうが」

少し顔を赤らめた恋次が、む、とした表情のままぽりぽりと頭を掻いた。

一護は雨竜を振り返ると、「悪ぃ」と言い寄った。

「恋次は良い奴だ。俺が保証する。コイツにも話し聞かせてやってくれねぇか?」

雨竜は眼鏡を直す手を止めながら、思い切り眉間に皺を寄せた。

それでも暫くして溜息を吐くと、「仕方ない」と呟いた。

雨竜は改めてルキアを向き直ると、厳かに口を開いた。

「朽木さん。これはお願いだが、これから話す事は、どうか他言無用にして貰いたい」

「うむ」

返答はルキアと白哉のダブルコンボだった。

この二人、そう言えば雰囲気微妙に似てるよな……と一護は場違いな事を思った。












雨竜の話にしばし耳を傾けていたルキアと白哉は、驚愕の事実に眉を寄せた。

「僕は言い逃れするつもりはない。犯罪に手を貸してしまったんだ、今更自分を庇うつもりはないよ。だけど井上さんとそのお兄さんは、何も知らずに利用されているんだ。謂われのない拘束だよ。こんな事、頼める義理ではないのは百も承知だが、朽木さんの生体データを取らせて貰えないだろうか?」

「それは……」

ルキアが口を開くのに、白哉がそれを抑えた。

「お前まだ隠し事をしているな?」

白哉の言葉に全員の視線が雨竜に集中する。

雨竜は微妙な汗を掻きながら、眼鏡を直して冷静を装った。

「何の事だか分からないな」

「惚けるつもりであるのなら仕方ない。お前の姉、井上織姫もデータ窃盗に手を貸したのではないか?」

「っ!?」

雨竜は声こそ飲み込んだが、激しく動揺したのは見て取れた。

「石田?」

一護が気遣うように呼ぶのに、雨竜は黙って俯く。

「先の話では、お前が副理事の言いなりになるには今少し理由に乏しい。自身の擁護に薄いお前であれば、尚のこと、もっと別に動きようがあっただろう。まぁ、調べればいずれ分かる事だ」

「井上さんは何も知らなかったんだっ」

石田は吐き出すように言葉を紡いだ。

「井上さんは、今もまだ自分が犯罪に巻き込まれたなんて気付いていない。彼女は本当に利用されただけだ。何も知らずに、それどころか恩を返したい一心で、彼女に責められる点はないよ。僕があいつに、彼女の事を話したりしなければ、彼女は何も知らずに暮らしていけたのに。彼女の才能があれば、あいつに目を付けられる事もなくSS学園に入学できたかも知れないのに。僕の所為なんだ。責められるべきは僕だけだ」

「お前は自分だけが罪を背負って裁かれたいと言うのか?」

「僕は昊さんが助かったら、井上さんの免罪と交換に理事長に全てを知らせるつもりだ」

「石田」

一護とルキアは思わず彼の名を呼んだ。

白哉は目を瞑り、溜息をつく。

その隣で、先ほどから小さく聞こえていた啜り泣く音の根元が感極まって石田を呼んだ。

「石田、お前、すっっっげぇ良い奴だな゛」

見れば男泣きしている恋次に、一護はちょっと釣られかける。

ルキアは既にもらい泣きしていたが、口はへの字だ。

白哉はそんな恋次の様子を興味深そうに一瞥したが、ややあって石田に向き直ると、

「話は分かった。お前達にも話しておきたい事がある」

自らの正体と、ルキアの事情について語り出した。









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