かくしてSS学園の生活をスタートしたイヅルだが、悩みの種は入学式の晩に訪れた。
「おいイヅル、食堂行こうぜ」
快適な学習環境が配慮される学生寮は全て個室。
各部屋に簡易バストイレ付きだ。
今まで住んでいたぼろアパートよりも格段綺麗な室内に、少ない荷物を片づけていたイヅルは戸を叩く恋次の声で時計を見た。
―――もうこんな時間かぁ。
「すぐ行く」
「おー」
さっそく出来た友人と連んで一階にある食堂へ向かった。
「すごい。バイキング形式なんだ」
「取り放題じゃねぇかっ!!」
喜びの色が隠しきれない成長期の二人は、さっそくトレーを持って列に並ぶ。
「すげぇ、メインディッシュが三種類もあるぜ」
「ちょっと、三つとも取る気?」
イヅルが恋次の小脇をトレーで突こうとしたその時、空から輪っかが振ってきた。
「イヅル、みぃつけた♪」
聞き覚えのある京訛りに振り向くまでもなく、彼はイヅルの前に回り込んでくる。
イヅルに回した腕はそのままだ。
「やっと会えた。後で会おなって約束したのに、イヅル、ボクのこと探してくれへんかったやろ」
「い、市丸さん!?」
目立つ銀髪はイヅルよりも頭一個分ほどは大きい。
抱き合うような形になってしまい、イヅルは両手で持っていたトレーを思わず落としかける。
「ギンでもええよ。イヅルはそこの赤犬君とご飯食べんの?ボクと一緒に食べようや」
一瞬、何を言われたのか分からなくて、イヅルの思考はスパークを放った。
「赤犬ぅ!?」
恋次の声に我に返る。
「赤こぉて、ふさふさしてて、ワンコみたいな子ぉやん。ぴったりや」
悪気はないらしいがあんまりである。
恋次が文句を言おうと口を開けた瞬間、横から伸びてきた手によって塞がれた。
「会長、食堂では騒がないで下さいよ」
朝、イヅルを遅刻から救ってくれた寮長さんだった。
「なんや修兵君かいな。別に騒いでへんよ。イヅルにご飯食べよて誘ってただけや」
そこでやっとイヅルは自分の置かれた立場を思い出した。
「あ、えと、僕……」
三人に注目されて、イヅルの頬が染まる。
「何だ、いきなり新入生虐めか? 良い加減にしろよ狐」
ああああっ、言っちまったっ!!!言っちまったよ、狐ぇぇええええっ!!!!
とは恋次の胸中である。彼は未だ修兵に口を押さえられていた。
イヅルは声のした方を見ようと視線を下げた。
「なんやシロちゃんまで。ボクなんも悪い事なんかしてへんよ」
「シロちゃんて言うな。食堂で騒がれたら迷惑だ」
シロちゃんと呼ばれた彼は随分と小柄な少年だった。
白い髪に緑水色の瞳の彼は、生意気そうな三白眼で市丸を睨んでいる。
「ギン、そのくらいにして早くご飯食べちゃいなさいよ。イヅル君だっけ?」
またも声の方に顔を上げると、素晴らしく豊満な胸の美女がイヅルを覗き込んできた。
「悪いけどギンと一緒にご飯食べてやって。ほらほら、あんたはさっさとイヅル君連れて行きなさい」
有無を言わさぬ宣告で、イヅルは
「乱ちゃんは話が早ょて助かるわ」
とか言ってるギンにお持ち帰りされた。
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まだまだ続きます。