ご飯を食べようと市丸は言ったが、何故かイヅルは担ぎ上げられるように彼の部屋に連れてこられていた。

「イヅルは軽いなぁ」

勝手な事をぬかしている市丸に、イヅルはバタバタと藻掻いて訴える。

「降ろして下さいっ!!!」

「ほい、到着!!!」

ベットの上に放り出されたイヅルは困惑顔で市丸を見つめた。

「そんな可愛い顔で睨まんとって。ご飯ならちゃあんとあるよ。唐揚げとハンバーグ、どっち好き?」

簡易冷温庫から取り出した学園マークの入ったお弁当を差し出され、イヅルは取り敢えず唐揚げを受け取った。

割り箸を割いて、しばしディナータイムとなる。

「さっきの方達は市丸さんの友達ですか?」

口火はイヅルが切った。

「ん。乱ちゃんはボクの幼馴染みでイッコ下の友達やな。一緒に居ったシロちゃんは会計部の部長さん。赤犬君の口押さえた子ぉは、二年の修兵君や。寮長さんやってはる」

「へぇ。シロちゃんさんは何年生なんですか?」

「ボクと同じ三年やで。アメリカのガッコから留学で来たから飛び級でホンマの年は確か12歳やったかな」

「あー、それで小さいんですね」

イヅルは納得顔で頷く。

市丸はハンバーグを突きながらも、イヅルから視線を外さない。

会話が途切れると、イヅルは居心地の悪さに少し市丸から離れた。

しかし市丸はイヅルが距離を空けようとすると、同じか、もしくはそれ以上に詰めてくるので居たたまれない。

「な、何なんですか。どうして近づいてくるんです」

イヅルはとうとう音を上げて市丸に向き直る。

市丸はこちらを向いて動かなくなったイヅルにぐいっと顔を寄せた。

思わずキスされるんじゃないかと焦ったイヅルは首を竦める。

しかし市丸はイヅルの鼻先でピタリと止まった。

「内緒の話があるんよ」

「へ、……え?」

拍子抜けして間抜けな返事をするイヅルに、市丸はくつくつと笑った。

「吉良イヅル君。ボクは君を知っとるで。全国模試の常勝の天才」

イヅルは赤くなる。

まさかSS学園でまでそんな呼び方をされるとは思わなかった。

「その賢い頭、ボクに貸して欲しいんやけど、二人だけの秘密、守ってくれる?」








イヅルは最初から市丸に出会った時のイメージを思い出していた。

どこかただ者ではない空気、とでも言おうか、不思議な空気を纏う人だった。

そこに居るのに、本当はそれは彼の影で、本当の彼はどこか別のところでそれを眺めているような。

手を伸ばしても、蜃気楼のように掴む事が出来ないような気さえしてくる。

そんな市丸に、興味を持ったのは必然だったのかも知れない。

もともと好奇心は旺盛な方だ。

知りたいと思ったら止まれない。

イヅルは心の読めない顔で笑う市丸に、大きく頷いて誓いを立てた。

「貴方の味方になります」























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ちょっと本筋に近づいてきました。
市丸の企みとは一体!?
……なーんて。