イヅルが何だか忙しい。

怒濤のイヅル食堂拉致事件の後一ヶ月が経ち、一年生達はやっと学園生活に少し慣れ始めていた。

その中にあって、異様に目立つ一年生は言わずと知れた吉良イヅルである。

食堂での生徒会、会計部、寮長との三つ巴で注目の的であったところ、生徒会長に担ぎ上げられ拉致られるという事件を経て、何故かあの人の寄りつかない生徒会に出入りするようになった。

「副会長!?」

アルティメットクラスの仲良し三人組は、一緒に学園食堂で昼食を取っていた。

「うん。何か勝手に書類とか作られちゃってて、気付いたら既成事実というか……」

「吉良君、それ完全な詐欺だよ」

生徒会副会長になった、とイヅルは言った。

恋次と雛森は最近のイヅルの忙しさに納得しつつも、市丸生徒会長の強引なやり方に驚く。

「市丸生徒会長って、何か凄い人らしいね。吉良君大丈夫なの?」

「ああ……まぁ……」

曖昧に言葉を濁すイヅルの目線は泳いでいた。

「頭は勿論、運動神経も抜群で、一年生の時から生徒会長だったんだって」

「うん。そうらしいね」

「しっかし、いきなりだったよな。いつお前に目ぇ付けたんだろ」

「入学式前に声掛けられたんだよ。金髪で目に付いたからって」

「なるほどな。しかし目に付いたからってソイツを副会長にしちまうなんて、お前相当気に入られてんな」

「……うん」

イヅルの反応は薄い。

それと言うのも連日の腰痛の所為だ。

とても級友には話せない裏話があるにはあるのだが、それはまた別の機会で書こう。

恋次は昼食用のオムライスを片づけると、いつものようにデザートのたい焼きをを頬張りながら言った。

「ところでさ、檜佐木先輩から聴いたんだけど」

あの食堂での事件以来、何故か恋次は修兵に懐いていた。

暇さえあれば修兵の部屋に入り浸っているらしい。

「今度、転入生が来るんだって?」

恋次の言葉にイヅルは頷いた。

「うん。何でも特別編入らしくて、理事長のお墨付きなんだそうだよ」

「へぇ。じゃあもしかしてすっごい天才とか?」

雛森が勢い込んで訊く。

「さぁ。何が特技なのかは聴いてないんだ」

それでもSS学園に入学を認められるほどの人物なのだから、何かしら特別な能力の持ち主だろう。

三人は未だ見ぬ転入生の話に花を咲かせながら、のんびりとした六月の風に吹かれていた。









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やっと次回、ルキア登場です。
学ヘヴやった方には既にネタバレしてますが、ちゃんと捻る予定ですのでもそっとお付き合い下さい。