「お嬢ちゃんその大荷物、こんな時期にSS学園に編入かい?」

「ああ」

SS学園行きのバスに揺られながら、朽木ルキアは物思いに耽っていた。

彼女の元にプラチナペーパーが送られてきたのは一週間ほど前だ。

普通なら4月の入学式に合わせて、中学三年の冬前には届く推薦状がこんな時期に来たものだから、ルキアはこれまで通っていた公立高校を辞めて来た。

ルキアには家族がなかった。

孤児院に身を寄せながら高校に通えたのは、名も知らない足長おじさんのお陰である。

何故か素性を明かさない事を条件に、生まれてからつい一週間前まで自分に出資してくれていた彼(または彼女)から突然に届いた手紙。

『SS学園への編入が決定致しました。朽木ルキア様においては早急に転校されたし』

理由も告げない事後承諾の手紙は初めてではなかったが、ルキアの心を揺さぶるには十分だった。

何故、唐突に、しかもこんな時期にSS学園などというエリート高校に編入させるのか。

ルキアにはこれと言って思い当たる才能がなかった。

そんな自分が学園で上手くやっていける自信もなかったが、自分に選択権はない。

細く息を吐いたルキアは、首を振って思考を切り替える。

足長おじさんの気紛れはこれが初めてではなかったが、この真意を突き止めれば、彼(または彼女)について、何か分かるかも知れない。

ルキアは窓ガラスに映る自分の顔に、決意の眼差しを向けた。









バスから降りると、ルキアの前に大小二つの凸凹な影が出迎えた。

「こんにちわぁ。朽木ルキアちゃんやね。ボクここの生徒会長やっとる市丸ギンや。よろしゅう」

「はぁ……」

ルキアは何だか嫌な汗が背に伝うのを感じた。

この市丸ギンという男、銀髪に痩せた長身で狐のような顔立ちをしていたが、雰囲気は毒を孕む蛇。

途端俯いたルキアの視界に、凸凹の凹の方の小さな少年が目に入った。

「俺は日番谷冬獅郎。会計部部長だ。狐のことは気にするな。いきなり噛み付いたりはしねぇよ。希な編入でこっちも慣れてねぇんだ。寮に荷物置いたら教室に案内する。行くぞ」

言いたい事だけ言って歩き出した日番谷に、市丸が間延びする文句を投げた。

「もぉ〜、シロちゃんは愛想ないなぁ。今度イヅルの爪の垢でも持ってきたるわ」

「いるかっ」

振り向いて怒鳴る日番谷と、その後をのんびり歩く市丸。

ルキアはその異様に個性豊かなキャラ二人に気後れを感じ、編入間もない学園生活に不安を覚えずには居られなかった。











「おはよぅさ〜ん」

一年生レギュラークラスに市丸の緩い挨拶の声が響く。

めいめい始業前の朝の時間を楽しんでいた生徒達は、一様に教室の出入り口を注目した。

「転校生の朽木ルキアちゃんや。仲良うしたってな。ん〜そこのオレンジ頭」

「へ? あ? 俺っスか!?」

ガタガタと椅子を立ったのは、なるほどオレンジ頭の少年だった。

「ん。どこぞ空いてる席あるかいな。ルキアちゃんをエスコートしたって」

「はいっ」

オレンジ頭は強張った顔で返事をする。

それに満足したのか市丸はルキアの頭を撫でながら教室の中に促した。

「虐められたらボクに言って来てもええで。ボクが虐め返したるからな」

「アホ狐。後は教師の担当領域だ。おい、間違っても狐に相談なんかしに行くなよ。リスクが高すぎる」

「酷いわシロちゃん、それどういう意味よ」

「シロちゃんて呼ぶなっつっただろアホ狐っ!!!」

二人は喧嘩しながら教室を去っていった。

そこでやっとざわめきが戻る。

「おう、お前、朽木ルキアっつったな」

「ああ」

先ほど市丸にルキアをエスコートするよう指示された少年がルキアの前に立っていた。

「俺は黒崎一護。なんで生徒会長と会計部長がお前を連れてきたんだ?」

「さぁ。私にも分からぬ」

黒崎一護は眉間に皺の寄った悪人相だが、中身は良い奴のようだった。

ルキアは気さくな物言いに安堵する。

「それより一護、会計部長、というのは何だ?」

「ああ、それは……」

「我が校は生徒会と会計部がぞれぞれ独立して存在するのだ」

口を開いた一護の台詞を奪うように、後ろから長身の男が説明を続けた。

「元々は会計部も生徒会の一部であったのだが、現在の会計部長、日番谷が市丸と同じ部屋で仕事をする事を嫌がって、それぞれ独立した組織として運営されるようになったのだ。会計部はその性質上、生徒会との深い繋がりも否めないが、我が校は生徒の自主性に力を入れている。それ故に、学生会費を含む各部の運営費、行事予算など、公正を要する金銭の采配が必然となるため、会計部自体が独立する事でそれらの癒着、腐敗を防ぐ役目も担っているのだ」

男は端正な顔立ちをしていたが、どう見ても高校生には見えない凄味を纏って立っていた。

立て板に水の説明をルキアと二人、口を開けて聞いていた一護は「そう言うことだ」と、小さく呟いた。

「ど、どうも」

ルキアもどう反応して良いのか分からずに口籠もる。

天才ばかりを集めた学校と言うだけあって、どいつもこいつも変人ばかりだ。

端整な顔立ちの男はそのままルキアに右手を差し出した。

「私は朽木白哉。名字が同じとは奇遇だな。私の事は兄と呼んでくれ」

「は!?」

ルキアは固まったが、一護の耳打ちで正気に返る。

「多分、留年生か何かだろ」

なるほど。

朽木白哉、兄というのは『お兄さまと呼べ』と言う事なのだろうかとルキアは眉を寄せた。










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白哉兄様、高校一年生は流石に無理があるよ……
取り敢えずスタートラインに到着。